The Hell Missionals
blog連続空想小説「さよならの向こう側」
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2008年03月14日

第28話 担当:2号

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食事処「勝牛」のデミグラスビーフカツ丼は、大食漢で鳴らしたさしもの時田でも少し胃にもたれる感じのボリュームだった。

「いきたいところってのはここか?」

「いや。妙見神社なんだ」

「妙見さん?何でだよ。祭礼でもあるのか?」

サヤカは妙見と聞いて、下を向いた。時田はそれには気づいてはいない。

沈黙の中、時田が茶をすする音だけが響いた。そろそろ出ようかと茶山が立ち上がり、金を払う。

軒を出ると、時田は腹をさすりながら「デミグラスとカツ…そうか!」と、一人つぶやいた。
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2007年01月07日

第27話 担当:2号

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ヤナギが死んだというのはタチの悪い悪戯だった。

メールの主である時田康男が次の日の朝、家を訪ねてきて「ドッキリ成功」とばかりにヤケに笑顔で嘘だということを明かしたのだ。

時田という男は、ヤナギ同様大学時代の友人で、昔からこういった悪戯癖があるのだが、その屈託のない笑顔と慣れで怒る気にならないのだ。
だが今回ばかりは、ヤナギに依頼した調査やサヤカの「佐山」事件もあり嫌な予感がしていたことからも時田を怒鳴り散らした。

「てめえ!やっていいことと悪いことがあるぞ!」

「チャーさん、そんなに怒ることないじゃないかよお。気の利いたジョークだよ」

「どこが気が利いてるんだ!バカ!今俺はなあ…」

「冗談が利かねえなあ。しばらく会わないうちに頭が固くなっちまったのか?」

「てめえ…」

その声に寝ていたサヤカが起きてきた。

「うるさいよ、茶山さん。起きちゃったじゃな…、あっ時田くん」

「おおサヤカちゃん!久しぶり!茶山のバカがさあ…」

私はサヤカに一部始終を話し、このやりとりの間に急速に心を落ち着けた。

「時田くん!バカ!その嘘のせいで、昨日は…」

「昨日?なんだい?」

「…もういい」

サヤカにも叱られて時田は急にシュンとなってしまった。さすがの時田もまずすぎる嘘をついたことに気づいたらしい。頭の回転は速いのだ、彼は。

「チャーさん、サヤカちゃん、ごめん。どうやら本気で悪い嘘だったようだね。でも、ヤナギと連絡が取れないのは事実なんだ。用事があって電話したんだが出なくて。メールもダメ。それで死んじまったんじゃねえかって」

私は嘘だと聞いてどこかホッとしていた心が急速に凍りつくのを瞬時に感じた。
何かよくない、何か嫌な空気が私の頭上50aメートルのところをクルクルと回転しているような気がした。

「時田、今日は何の用だ?」

「おまえのビックリするところを見に、というのは嘘で、昼飯でもいかねえかと思って。話したいこともあるし。その後『くるみ』で一杯どうだ?」

「時田、それとサヤカ。ちょっと出よう。行きたいところがある。飯はカツ丼をおごるよ」

そう言って私はヤナギシンジ探偵事務所の茶封筒をカバンにしまいこんだ。
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2007年01月02日

第26話 担当三号

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その時である、私の携帯電話がブルンブルッと震えた。

「ん、なんだ大学の連れからのメールか。珍しいな。
そんなことはいいんだ。それより佐山ってのは誰なんだ?
なんとか言ったらどうなんだ、サヤカ。
僕と間違えるってことは…。」

私は言ってはいけないことまで言いかけたが、
どうにかとどまってみせた。
しかし私の言葉がきつかったのか、さやかは昔よくやってみせていた
口を尖らせて拗ねる表情を作った。
そんなことで私は追及するのをやめる気はなかった。

「どうなんだ。」

「そんなことよりメールを見たら。
話しならメール見た後でもできるでしょ?」

「いやダメだ。今すぐに答えてくれ。」

「そんな言い方される筋合いはないわ。
私はあなたの奥さんでも彼女でもないのよ。」

「そうだけど…」

口下手な私の方が逆に言葉につまり
気まずさからメールをちらりと覗いてみた。

その内容に戦慄した。

『悲しいお知らせです。ヤナギシンジ君が亡くなりました。
お通夜は○月×日、葬儀は△月◇日に行います。
ここからは個人的な文章だが、アイツ誰かに殺されたらしいぞ。
ヤナギと親友だったお前には言っておかないと、と思って。
警察も犯人を捜しているようだが、まだ見つかっていないそうだ。』


「サヤカ、知っていることを全て教えてくれないか。
聞かない訳にはいかなさそうだ。」
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2006年12月16日

第25話 担当:2号

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「知らないな」

私は素っ気なく答えた。もう面倒なことは御免だ、今日はゆっくりさせてくれという思いがそうさせたのだろう。サヤカの注いだわけのわからない紅茶然としたものを口に含みながら、壁にかかるバッハの肖像画を見るともなく視線を落とした。

「ああ、そう。佐山さんなら知ってると思ったのに。まあ、いいわ」

サヤカは「特に大したことでもなかったのよ」といった感じでぼんやりと答えた。
私はフーッと一息つき、やれやれと思った。
しかし、ふと何か喉に魚の小骨がひっかかったような思いがする。なんだ? なにか違和感がある。サヤカの言葉に何か強烈な「問題」があるような気がする。

アブドーラ島? いやあの「腐れ島」のことなどどうでもいいし考えたくもない。サヤカの表情。いつも通りのシレッとした可愛げのない表情だ。頭の中を駆け巡る寸前までの目の前の風景を再生し整理していく。

……そうだ、サヤカはさっき「佐山さんなら知ってる」と言った。確かに「佐山」と言ったのだ。私の名は言うまでもなく、「茶山」だ。サヤカとの付き合いはもう十年ぐらいになる。間違うはずがないだろう。

「佐山」と「茶山」。
似て非なるものとはこのことか。それにしても私の名を間違うなんて…。微妙にショックを感じている自分が忌々しい。ひょっとしてその「佐山」というのは、サヤカの「非常に近しい野郎」とかなのだろうか。

「ちょっとサヤカ君、おれの名を忘れたのかい?」
「え?」
「言ってごらんよ」
「何言ってるの? 紅茶にトリカブトは入れてないわよ。茶山さん」
「そうだよ、僕は茶山真一郎だ。決して『佐山』ではないよ。『茶』は『サ』とも読むけどね」

私はイヤに憎憎しく聞いた。誰だって嫌だろう、自分の名を間違えられるのは。久しぶりに帰ってきたサヤカが私の名を間違うということを「シレッ」とやってしまったことに段々と怒りが膨らんできたのだ。

「何言ってるの。『佐山』なんて言ってないわよ。『佐山』なんて。ちょっと会わない間に頭がおかしくなっちゃったんじゃないの? 茶山さんは茶山さんじゃないの。いやねえ。ほんとに」

とサヤカは私の目を見ずに早口でまくしたて、サッと目の前の関東日日新聞を開き、クソ面白くないと評判の『ヤッパリ君』を読み出した。

おかしい。何かがおかしい。
サヤカはここまでひとつの物事に感情的になることはない。少なくとも私は見たことがなかった。ところがどうだ、今のサヤカは。早口でまくし立てることもおかしいし、クソ面白くない『ヤッパリ君』を凝視し続けているではないか。

私が「疑惑100%パワー」をもってサヤカを凝視していると、サヤカは不意に「ヤッパリ君」から目を離し、私をチラッと見やった。

「やっぱり『佐山さん』って言っちゃってた?」
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2006年08月24日

第24話 担当:三号

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「あ、忘れ物をした。すぐ戻るよ。」
と私は180度回転して、家を飛び出そうとした。
「もう、久しぶりに会って何よそれ。」
とサヤカの声が後ろが突き刺さるのを無視して、私は家を出た。

家を出て、近所の公園を通りがかった時足元に何か当たるのを感じた。
見下ろして見るとサヤカの飼い犬である、ポメラニアンの『豆田君』であった。
だいたいあの女がくるとロクなことがない。犬に『豆田君』なんて
名付けること自体、神経を疑いたくなる。
と思いつつも、サヤカが戻ってきてくれたうれしさもあったりと複雑であり、自分の頭を整理する意味でも家を飛び出してしまったのだ。

「なぁ、豆田君。サヤカはなんだって急に帰ってきたんだい?」

と犬に話しかけても、豆田君はキョトンをしたままトコトコと私の歩くのに
ついてくるだけである。
豆田君と散歩しながら、私は『スナックくるみ』の前を通りがかった。
一杯飲んで、ゆっくり考えるとしようか。
幸い豆田君は愛らしいから、ママもOKだろう。
などと考えながら扉を開けようとすると、そこには大きく貼り紙がしてあった。

『しばらく休みます。』と。

一体?
まさか、あの下衆男と一緒なのでは?
そう思うとハラワタが煮えくり返る思いがした。
八つ当たりで豆田君を蹴飛ばしたくなる気持ちを抑え
豆田君と帰路に着くことにした。

鬱屈した気持ちを抱えたまま、家に帰るとサヤカが
「忘れ物はみつかったの?」
と忘れ物などないのを知っているのに聞いてくれた。
これがこの女の良い所だ。私は
「あぁ。」
と曖昧に返事をしてソファーに腰掛けて煙草に火をつけた。
「サヤカ、なんだって急に戻ってきたんだ?」
という問いかけに、フフ、と笑うだけでサヤカは何も答えなかった。

昔のようにキッチンのポットの前で鼻歌を歌いながら
よくわからない紅茶を拵えていた。
紅茶をカップに注ぎながら、唐突にサヤカが口を開いた。

「ねぇ茶山さん、アブドーラ島って知ってる?」

やはり、こいつが来るとロクなことはない。
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2006年07月26日

第23話 担当:2号

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玉村との打ち合わせは低調に終わった。

結局話が進まなかったということと、玉村の卑しい人間性、そして「あの写真」のことが気になり、全てが相まって暗澹たる気持ちがジクジクと私の心に沁みていた。

夕闇迫る街をトボトボと歩いてはいたが前に進んでいる気持ちにはならず、そしてそんな感情からいつものように酒を呑みに行こうとせず、自宅に戻った。

カギをポケットから出し、いつものように、そして無意識にカギを開けようとするとなぜだか部屋は開いているようだった。

私の忸怩たる空虚な思いは吹っ飛び、すぐさま身構え、声を発した。

「…誰だ…?」

返事はない。部屋は薄暗く、人の気配は感じなかった。
だが「見えないものへの恐怖感」から、更に大きな声を出して「見えない敵」を威嚇した。

「おい、お前誰だっ?おいっ!おいっ!」

すると一匹の犬が私の足元に転がるボールのように飛び出してきて、足にすがりついた。

私はそれを見て一瞬で誰がいるのか理解できた。

「サヤカか?…帰ってきたのか?」

するとトイレからジャーと轟音を立て、一人の女性の姿が薄闇の中から出てきた。

「…トイレぐらいゆっくりさせてよね。…ひさしぶり、茶山さん。」

女性は犬を抱え上げ、リビングの電気をつけ、まるで自分の部屋のようにふるまって、「おかえり」と私に再度声をかけた。

私の暗澹たる気持ちはどこかに行ってしまったようだが、なぜこの女が急に私の前に現れたのか少し不安になった。
というのもこの女が現れる時はいつも、安堵感と一緒に何か問題を引っ張ってくるからだった。
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2006年06月08日

第22話 担当:1号

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喫茶店に戻ると玉村が不機嫌そうに耳をほじっていた。

「玉村さん、これ、どうぞっ!」

席に戻るなり私はみたらし団子とコロッケを差し出した。

「ん?おっ!
 いつも気が利くねぇ〜、茶山くんはぁ〜。」

玉村は感嘆の眼差しでこちらを見つめながら
そう言ってその食い合わせを試すかのように
両方同時に舐り始めた。彼は下品を追及するあまり時に奇怪になる。

「しかし、オレの好物をよく覚えていてくれたね。
 最近じゃぁ、このセットでくれた奴いないんじゃないかな?」

私は玉村の機嫌がみるみる直っていくことに驚いた。その人物の特徴を記憶するのは得意な方だが、彼の場合は誰よりも特異なため忘れ得ない。

「あと、玉村さんてイチゴ大福とスウェーデンポテト同時にもハマってましたよねぇ?」

「おぉぉぉぉ…モグ…渋いの覚えてるねぇ…モグモグ…でもあれは俺の中では邪道なんだよね…モグ…だって…モグ…美味すぎるんだぜ、あれ…モグモグ…やっぱこれだよ。みたらしコロッケ。腐れ縁だなこら。モグ…」

「ほかにも、あの〜、ぶり大根とウニとか、あと五月人形にイグアスの滝とか…」

…私の内心は沸点すれすれだった。
 機嫌直ったのいいけど、写真はどうなったんだよ、写真はあ…
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2006年05月21日

第21話 担当:三号

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ヤナギシンジはゆっくりと振り向いた。
肩をつかむ手の親指と人差し指の間のコブの部分には刺青らしきものが見えた。

「これはこれは、石川さんじゃないですか」

石川と呼ばれた男は、いやらしいほど隆々とした筋肉をみせつけるかのようなタンクトップ姿で、ヤナギの肩をギュっとつかんだ。
その力強さは、この手を離す気はないという意思を感じるに十分であった。

「石川さんじゃねぇだろ。お前、自分のやったことわかってるのか、おい。少し場所を変えて、話をしようじゃないか。」

ヤナギは後悔していた。探偵をきどって、情報屋まがいのことをして
この先に起こるであろう、あまり良くないことが確定した事態を想像するだけで尻の穴がしぼむ思いがするのである。

「茶山、すまん。お前の頼まれごとは当分できそうもなさそうだ。」

ヤナギは独り言を呟くと同時に、石川の高級車に放り込まれるように乗せられ、そんな状態でも

「石川さん、こんなことをしてもいいんですか?」

と強がって駆け引きをしていたが、内心はもう駄目だ、という気持ちに支配されていた。




その頃茶山は、そんなことも知らず玉村の待つ喫茶店まで
小走りで戻っていた。
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2006年05月18日

第20話 担当:2号

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「東京なんてところはハキダメみたいなとこや。でも人間の汚いところが集まってるからオモロイんや」

路上に落ちている空き缶を軽く蹴りながら、ヤナギシンジはそんなことを考えていた。

大阪から出てきて10年は経つ。その10年の間に落ちるところまで落ちた。その世界最下層の地で出来ること、楽しいことは、人間の奥底に眠る「汚さ」を覗くことだった。その「汚さ」を見る事で人間そのものを蔑み、自分の存在価値が少し上がると感じることに恍惚感を得ていたのだ。
更にその「汚さ」を「情報」として高値で売ることも知った。欲する人間がこの世にはたくさんいるのだ。しかもそれは上流階級の人間に多い。

しかしヤナギシンジは決して今の状態を良く思ってはいなかった。
人間の生まれもっての理性、いや性格なのだろうか、これは人間のクズのやることだ、と心の奥底で感じていたのだ。
「大阪に帰って人が喜ぶような商売をやりたい。だが今は・・・」
そう悶々としつつ、情報獲得のために風俗案内所のバイトと八百屋、探偵の仕事をだらだらとこなすだけだった。

「・・・わかった・・・」

といって茶山の電話は切れた。大学時代からの友人である彼はきちっと金を払う律儀なヤローだ。

調査対象がわかっていたら話は早い。臓器移植っちゅうのは少し闇だな、と思いながら空き缶を蹴飛ばしていると、急に肩に圧力がかかった。

「ヤナギ君、この前はドウモ」

肩を押さえつけるその手には憎悪と嘲りが感じられ、即座に振り向くことはできなかった。
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2006年04月16日

第19話 担当:1号

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「玉村さん、ちょっと待っていて下さい。
 いい物を持って来ますよ。」

そう言って私は喫茶店を飛び出した。飛び出し際、横目に映る玉村は
なぜか愉快な顔をしてまた耳をほじくっていた。

店を出てすぐ私は友人のヤナギに電話をいれた。

※ヤナギとは大学時代の友人で
 現在は八百屋と風俗案内所のバイトと似非探偵の三足のわらじで
 ギリギリ生きている元駄目人間。
 スナックくるみを紹介してもらった男でもある。

「おう、ヤナギ。今日も少し調べてもらいたい事があるんだ。」

「何をー?」

「実はこないだ話した男について、何か臓器売買に携わっていた過去が無いかという事を調べて欲しいんだ。あとこれは時間があればでいいんだがアブドーラ島という島の存在についてだ。明日正午までに頼む!」

「何をー…   5万で… 」

「わかった…」

高っ
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2006年03月12日

第18話 担当:三号

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「茶山君、わからないのかい。ククク、ならば教えてあげよう。
これはねー、実はねー、焼肉屋の写真だよ。ガーッハッハッハ」
と、笑う玉村の下劣な顔を見ると、正直ぶん殴りたくなった。

「何をくだらねぇこと言ってんだ、コノヤロー」
とテーブルを蹴り倒し、態勢を崩した玉村の髪の毛を掴んで
顔面を思いっきり殴った。そして倒れた玉村の腹に何度も蹴りをいれ
「今度、くだらねぇこと言ったら殺すぞ」
と言い放ち、玉村の下劣極まりない顔に唾を吐きかけた。


という妄想をしながら
「ハハハ、玉村さん冗談はそれぐらいにして、本当は精肉店か何かの写真なんでしょう?」
と心の動揺を抑えながら言ってみた。
こう答えたのは、写真には興味があるのだが、この下劣漢の前で間違ったことを言って、馬鹿になどされたら、実に癪に障るからである。

しかし、それが裏目に出たのか、玉村の表情は曇り
「君、それ本気で言ってるの?駄目だな、君にこれを見せるには
10年早かったようだよ。」
と言い放った。

私は大いにあせった。せめてあの下衆男のことぐらいは聞き出さなければ今夜は眠れそうもない。

私は玉村の機嫌を直すために一計を案じた。
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2006年03月07日

第17話 担当:2号

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そこにはグロテスクな臓物のようなものが写っていた。
臓物を人が持つ姿が写し出されており、どうやらそこは暗い工場の中のようだった。

私はその怪しい雰囲気に圧倒されながらも、玉村に聞いた。

「・・・一体これはなんですか?」

「・・・これは人間の肝臓だよ。それよりこの手が気にならないか?」

そういえばこの手は誰のものだろう?
人身売買か何かに関わっている人間なのだろうか。
よく見ると手の甲、親指と人差し指の間のコブの部分に刺青らしきものが見える。

幼少の頃に見た、アニメ「サイボーグ009」の006、中国人キャラクター張々湖の顔が見事に刻まれていた。

人間の臓物とアニメキャラクターのミスマッチ感がいささか和みを誘ったが、私の中で奇妙さは増大された。

「これがなにか・・・?いかにも怪しいですが・・・」

すると玉村はいかにも下劣感たっぷりにニヤリと笑い、

「なにぃ〜?ピンとこない?あんたこの業界長いんだろぉ?これはだな・・・」

玉村のニンニク臭い息が重要なキーワードを発しかけた瞬間、写真の一部分が目に入ってきた。

背後で誰かが写っている。工場内で作業服を着てこちらを見ている男がいる。どこかで見たことがある。

・・・あいつだ。
ついさっきも見かけた下衆男だ。

あいつはなんなんだ?
やたらと俺の前に出てきやがる。

まだ何も接点がないにもかかわらず、その存在が鬱陶しく思えてきた。
何故だか私の前に立ちはだかっているような気になって、動悸が止まらなくなった。
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2006年02月19日

第16話 担当:1号

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何処を探しても見つからない封筒。
結局、徹夜で片付いた部屋は昨日に逆戻りした。

そうこうしている間に12時前。
私はチョキの封筒と部屋の片づけを諦めて高円寺に向かった。

駅前のコンビニで滋養強壮剤を買い、乗車前に一気飲みした。
そしてその空き瓶をホームのゴミ箱に投げ入れようとした瞬間、私の前を見慣れた女性が横切った。スナックくるみのママだ。普段、店で見る姿とは雰囲気が違うが間違いない、ママ本人だ。声をかけようとしたが男の連れと親しげに話し込んでいる様子だったので躊躇した。私が乗り込もうとしている電車からちょうど降りて来たところらしい。挨拶はせず電車に乗り込み窓際の席から外を眺めていた。発車直後、ホームを歩くママとすれ違った。人間の卑猥な性からママが連れている男の顔を覗き込もうと思い、体をよじった。

「え?あの男は?」

なぜか嫌な気分になった。
ママが連れていたのは二週間ほど前にスナックくるみ前で見た、あの下衆男であった。
「なぜだ?なぜあんな男とこんな昼間に会っているんだ。私の知らない間によく顔を出していたのか?しかし、三年前から足繁く通う私ですら店以外でママに会う事は無かった。」

それから高円寺の喫茶店に着くまでの間、ママとあの下衆男の事で頭の中が溢れた。

二人の関係が気が気でなかったが、待ち合わせの喫茶店に入ると奥の席で
「週刊下劣」副編集長の玉村が下劣な耳を下劣にほじっている姿が目に飛び込んできて
我に返った。

「どーも玉村さん、こんにちは。」

「茶山くん、これ見てみてよ。」

私が席に着く前に玉村が机の上に一枚の写真を置いた。

「た、玉村さん、これは…」

私は私自身が何者かに突き動かされているような、そんな奇妙な不安と興奮に包まれた。
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2006年02月01日

第15話 担当:三号

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家を出て近所の公園を通りがかった時に、
小学生がじゃんけんをしていた。

それを見て私は昨日の出来事を思い出した。
そして、ふと
「週間下劣」の副編集長に会うには手持ちがさびしいな、と思った。
取材もいいが、昨日の出来事が何か面白い記事にならないものか?
と考えたのである。

私は思い立ったが吉日とばかりに家に戻ることにした。
帰り道に昨日のことを思い起こした。
確かあの暗号はこんなんだった。

『12月24日未明、ハセアブドーラン島にてハンセンの館在の加瀬は放置せずを高くば語る。
最初にみつけた高野人弥博士と当方の羽野千太で川の館は賭けることになります。
これが納得できる人弥博士だけ過去の反省せん。』

と、意味不明だが『ハンセンの館消失』の言葉通り
「は・ん・せ・ん・の・や・か・た」
という言葉を消すと

『12月24日未明、アブドーラ島にて財宝地図を配る。
最初に見つけた人と当方で分けることになります。
これが納得できる人だけ来い。』

となるのである。

「週間下劣」がこんな内容のものをとりあげるかは別として
面白いネタには違いない。
と、ついつい考えてしまうのは職業病のようなもので
ライターなどという肩書きのみの大して儲からぬ仕事をしていると
何か収入につながるものないか?
とつい浅ましくなってしまうのだ。

しかし、その根性が成功に繋がる結果だと信じている私は
家に着くなり昨日届いたチョキ型の封筒を探した。

しかし、一体どうしたことであろうか?
チョキ型の黒い封筒がどこにも見当たらない。
いくら、探しても見つからない。
確かにあったはずだ。

そういえば
昨日家に帰った時部屋が荒らされていた…。

それを思い出した時、私は背中に冷たいものが流れるのを感じた。
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2006年01月29日

第14話 担当:2号

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「ルーレット・ビッグでチャンスでヤンス〜!!」

轟ミノルの能天気な声で我に返った。

何度思い出しても嫌な気分になる。この過去の出来事は自分の中で封印してしまいたいのだが、ふとした瞬間に思い出してしまうのだ。
このラジオ番組の馬鹿げたノリが一層鬱陶しさを募らせた。

今日は仕事が入っている。
午後一時より現在抱えている仕事で一番大きなヤマである
「ある広域暴力団組長とある有名芸術家の奇妙な関係」
の取材である。
仕事を請けている側の私でさえ軽蔑している一般大衆ゴシップ誌
「週刊下劣」
が狙う大ネタだ。

時間はあるがラジオを消し、身支度を整え、とりあえず家を出た。
「週刊下劣」副編集長と高円寺の喫茶店で待ち合わせているのだ。
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2006年01月15日

第13話 担当:1号

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いつも冷静な私だが、ついに錯乱してしまった。

「ちょきちょきちょきちょきぃ〜」

そう言って私はK氏の鼻と口の間の溝をおもいっきりツネってしまった。


「痛っ!」

その言葉を先に発したのは私のほうだった。
私の指はK氏の針よりも鋭い髭につんざかれ、赤く滲んだ。

K氏はいつもの無表情に戻り「これがじゃんけんだ。」と言った。
そして私の血で顔の4分の1真っ赤に染まっていたが、なぜかその佇まいは拝みたくなるほど凛としていた。私も心が整理され晴れやかな気分になり「また明日。」と言って帰路についた。

――――――――――――――


K氏とは無事決着をつけたつもりであったがずぶ濡れで会社に戻ると中田丸部長が鬼の形相で迎えてくれた。三流落語家・栗捨照ぺー平の「一日のうちに鬼に二度会うなんて、かっぱもオネショすらぁ。」というお寒いギャグを思い出し少し顔が緩んだ。

「くぉらっ!茶山くんっ!何を笑っとるかっ!君はとんでもない事をやらかしてくれたなっ!」
いつにも増していらつく口調である。

「はっ?一体何のことですか?」

「何のことですかじゃないっ!さっきK先生の庵で黄金の壺が盗まれたんだっ!K先生は顔を鈍器で殴られ重傷だそうだ。それで最後に会った茶山くん。君に容疑がかかっとるんだよ。聞けばその怪我を負わせたのは君だそうじゃないかっ!はあ〜、もう勘弁してくれ〜。」

後半はいつにも増して泣きべそ顔でまたいらついた。

その次の日に取り調べに行ったが、当然K氏は私には罪がない事を証明してくれて2、3時間で容疑は簡単に晴れた。
しかし有名陶芸家K氏への暴行事件、さらには完成間近の「黄金の壺」が盗まれたとあって元容疑者で重要参考人である私はマスコミの恰好の餌食とされた。

連日、会社にはワイドショーリポーターが押しかけ苦情やいたずらも含めた電話が鳴りっぱなしだった。この現象に私以上にストレスを感じていた中田丸は頬がこけ落ち、髪の毛が薄くなっていった。その様を見ているのも悪くは無かったがこの仕事にやりがいを感じなくなっていた私は会社への迷惑も考慮して辞表を提出した。それから2日後、辞職は受理されずクビを言い渡されたのだった。
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2006年01月12日

第12話 担当:三号

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「待って下さい先生。先生、待って下さい。イタ、イテテッ」
私は後頭部を抑えながら、後ろから飛んでくる陶器から
逃げるように玄関の方まで走った。しかし、

「ええぃー、この愚か者め。自分の言ったことがわかっておるのかー」
と鬼の形相でK氏が追ってくるではないか。
「先生、冗談です、冗談です、本当はじゃんけんってあれでしょ、ハァハァ」
私はとりあえず、その場を繕う言葉を必死に考えた。

「なんじゃ、早う言うてみぃ」

このおっさんは完全にキチガイに違いない。
これだから芸術家は嫌いなんだ。
そんなことを考えている場合ではない。
それにしても何と答えたらよいものか?

私は氏に向かって開いていた右の手のひらを左手で指差し
「これがパーで…」

すると氏の額に青筋が立つのがすぐにわかったので
「じゃなくて、パ、パ、パ、パンツです」

「貴様ー、わしをおちょくっとるのかー。塩をもってきなさい。
 帰れぃ!帰れ、帰れ。」

私は後頭部を抑えながら、後ろから飛んでくる塩から
逃げるように玄関の外まで走った。

「先生、冗談です、冗談です。先生がお怒りなもので笑わそうかなと
 思ったんです。本当はじゃんけんってあれでしょ、ハァハァ」

「なんじゃ、早う言うてみぃ」

私は一体何を言っているのだ。
やばい完全に動揺している。落ち着け、落ち着け。
それにしてもこのじじいムカつくなー。
ここじゃ雨に濡れるじゃないか。
そんなことを考えている場合ではない。

私は右の拳を握り、左手でその拳を指差し
「これがグーで…」

すると氏の額に青筋が2本立つのがすぐにわかったので
「じゃなくて、グ、グ、グ、グリグリマンボーです」

「貴様ー、わしを馬鹿にする為にここに来たのかー。弓をもってきなさい。
 成敗してくれるわ。死にたくなかったら帰れぃ!帰れ、帰れ。」

私は後頭部を抑えながら、後ろから飛んでくる矢から
逃げるように門の所まで走った。

こういう人にはまともに答えては駄目だ。
といってもさっきみたいに『パンツ』とか『グリグリマンボー』などと意味不明に言ってもまったく駄目。
ここは考えるんだ。考えようによってはこれはチャンスじゃないか。

と自分に言い聞かせ、氏に向かってピースをした。
そう、チョキである。そして私は氏に向かって

「これが、ハァハァ。チョ、チョ、チョ、ハァハァ」

「なんじゃ、早く言わんかっ」

命懸けの禅問答は終局を迎えようとしていた。
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2006年01月03日

第11話 担当:2号

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「じゃ、じゃんけん?・・・もちろん知っていますが・・・。」

私が答えるとK氏の開いているのか閉じているのかわからないつぶらな瞳から鈍い光が発せられた。

「もちろん?君は今『もちろん』と言ったか?なぜ『もちろん』なのじゃ?」

私は面食らった。じゃんけんを知らない大人はこの世ではなかなかお目にかからないだろう。それほどまでに当然至極の事柄と考えているので、まるで知っていることがおかしいかのような氏の口ぶりに私は狼狽した。

「し、知らない人はいないでしょう?小さい頃から慣れ親しんでいる事柄ですし、よくやるじゃないですか。」

「では、『じゃんけん』はどういうものか説明してもらおうか。」

変なこという人だ。気の短い私は正直苛立ちを覚えた。やはり陶芸家などという芸術嗜好の人間は変わっているのか。それともただ単におちょくられているのか。それとも・・・。

0.数秒のうちにこんなことを考え、仕方なく「じゃんけん」の説明を始めた。

「物事の順序や勝負を決める際に行う遊戯です。握りこぶしを『グー』、ハサミ型に指を突き出したものが『チョキ』、手を開いたものが『パー』・・・」

「帰れぃ!帰れ、帰れ、即刻帰れぇぃぃ!!」

私の説明が終わる前に突如として氏の怒鳴り声が響き渡った。

「どうされたのですか?何かいけないことでも・・・」

狼狽した私は咄嗟に声をかけた。

「黙れぃ!帰れ!帰れぃ!この犬畜生めが!」

氏の怒りは収まらず、閉じかかっていた眼は大きく見開かれていた。
その眼には白の部分がほとんどなく、まるで子犬のようになっていたことだけが印象的だった。
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2005年12月31日

第10話 担当:1号

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「お前はクビだ!」

当時私は、埼玉にある骨董品販売会社の営業部にいた。
その時最も馬鹿にしていた上司、中田丸部長にこの言葉を浴びせられた。

部長と部下とはいえ、仕事上の主導権を執っていたのは私であった。
それだけにこの言葉を告げられた時の屈辱は忘れ得る事が出来ない。

私がクビになる原因は数々あったようだが、決定的だったのが
某有名陶芸家K氏に対して働いた私の愚行であった。
私はまだ青かった…

フガフガフガファ〜―――――――

私は数ヶ月に亘り埼玉の山村にひっそりと佇むK氏の庵を訪れたが
商談が進むことは無く、いたずらに時間を費やしていた。
K氏はいつも決まって完成真近の作品を眺めるばかりでその声を聞くことは無かった。
私の狙いはまさにその完成間近の「黄金に輝く壺」であった。

その日もいつものように庵を訪れた。山は綺麗に色付き始めた頃だったが
空はどんよりと重く今にも雨が落ちてきそうであった。



「いやあ、K先生。今回の作品も大変素晴らしい仕上がりで。
是非とも我が社の方で引き取らせて頂きたく今日もお伺いした次第です。」

「…」

「今後我が社の方では先生の作品を目で見て心で感じる
個展ツアー、並びに先生の作品の海外美術館への出展、
さらにはそれらの作品の創造性の高さと先生の美意識の哲学を
メディアと融合する事によって世間に広々と浸透させて
行きたいと、この様に考えております。」

「…」

「…いやあ、これらの作品は是非我々の手によって世に広めて生きたいのです。先生はいかがお考えでしょうか。」

「…」

「…先生、是非とも我が社の方でこの黄金に輝く…

その時、外では雨が土に当たる音がした。私は「帰りは雨か」と思いながらしがない営業話を続けようとした。

するとその言葉を遮るようにK氏は初めておもむろに口を開いた。

「…
ゲホン…
…君は…じゃんけんというものを知っておるか。」

「えっ!?」
私は二重に驚いた。
なぜ、初めての答えが「じゃんけん」なのか。
そしてなぜ、初めて聞くK氏の声は轟ミノルのように甲高かいのか。

ここから
思い出すだけで身の毛も弥立つ
戦慄の禅問答が始まるのであった…
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2005年12月28日

第9話 担当:三号

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私は切れた手から流れる血をチュパチュパと吸い
ゴミ箱からパンソウコウを取り出してペッタリと貼り付けた。

「あー、仕事がみつからない」
と独り言を言って、またベッドにゴロンとなった。
ゴミ箱より、煙草を取り出し、2本同時に吸ってみた。
「ゴホ、ゴホッ」

「はー、やっぱり埋蔵金ほしいなー、働きたくないなー。
 でもスナックくるみに毎日行きたいなー」
と、また独り言を言って、目覚まし時計をゴミ箱に放り投げた。

床に散乱している、数多くの名刺を手にとり
指でもてあそびながら、また嘆息した。
「はー」

溜め息ばかりついていると、段々むかついてきて、急に起き上がり
「こんなもの、こんなもの、もう名刺はいらない。目覚まし時計もいらない。」
と叫び、名刺をゴミ箱に残らず、投げ入れた。

私は癇癪を起した自分の気を静めるために
もう一度ベットにゴロンと横たわった。

そして、職を失ったあの日のことを考えた。
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